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働く女性に元気をプラス! 連載エッセイ Back Number
金子由紀子
バブル崩壊直後にフリーとなった私は、当時20代後半。「私、ちゃんと生きていけるの!?」と、不安な気持ちでいっぱいでした。皆さんにも、これから向き合わなければならない人生の問題が、きっとたくさんあるだろうと思います。でもきっと大丈夫。今日をきちんと生きる人の10年後は、必ず輝いているはずですから…。
<プロフィール>
1965年生まれ、栃木県出身。ビジネス系出版社にて書籍編集を経てライター。子供の頃から“シンプル”“ミニマム”に関心を持つ。バブルの隆盛と崩壊のただ中にあった20代、10年に及ぶ一人暮らしを経験、その間に会社を辞めてフリーランスとなる。現在「シンプルで心地よい暮らし」をテーマに取材・執筆活動に携わる。著書に『毎日をちょっぴりていねいに暮らす43のヒント』(すばる舎)、『暮らしのさじ加減』(リヨン社)、『持たない暮らし』(アスペクト)ほか、監修に『スッキリ朝とゆったり夜』(PHP研究所)がある。
*… vol.1 『暮らしを楽しむ心のゆとり』 …*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
毎日、朝食もそこそこに駅にダッシュ! 疲れた会社帰りは、ついつい
コンビニ弁当を買ってしまう暮らしに、「心のゆとり」なんて言われて
もねぇ…。
わかります、その気持ち。パジャマのままでパソコンに向かっていた昔
の私がまさにそう。疲れてると「暮らしなんか、とりあえず回ってりゃ
いい」になってきちゃうんですよね。でも、そのまんまの暮らしを続け
ていくのは、経験上知っていますが、すごくマズいです。

仕事はきちんとこなしている、ゴミ出しも洗濯も一応ちゃんとしている、
誰にも迷惑はかけていない。一見、何も問題ないように見えますが、忙
しさに、日々の「業務」をクリアすることだけに汲々としていると、心
の奥深い場所から、だんだん乾いていって、心がひび割れてしまうんで
す。生きてはいけるけど、「生きてる!」って実感がなくなってしまう
んです。そんな女性は、端から見ていると、痛々しいです。

そんなことにならないためには、もっと自分を大切にしてあげなくちゃ
いけません。といっても、エステや温泉に行ったり、ジュエリーやバッ
グを買ったりする必要はありません。

「自分を大切にする」ためにもっとも必要なことは、「時間をかけてあ
げる」ことじゃないでしょうか。長期休暇をとらなくても大丈夫。そん
なに大したことじゃないんです。
ただ、いつもはシャワーでザっと済ませてしまう入浴を、バスフォーム
を泡立てた浴槽にゆっくりつかり、音楽を聴きながら雑誌なんか読んで
みたり。菓子パンとコーヒーで済ませがちな朝食を、土鍋で炊いたご飯
と、いい鰹節でだしをとった味噌汁にしてみたり。

いつもテキトーに済ませてしまう、「生産的でない」こんな時間を、ち
ょっとだけゆっくりにしてみてください。心の奥深いところが、じんわ
り温かくなってきます。
−−それが、「心のゆとり」なんですね、きっと。 
*… vol.2 『将来が不安』 …*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
28歳を目前に、会社員からフリーランス(という名の失業者)となった私。
独立したからといってさしたる当てもなく、たいした貯金もなく、イナカ
の親から持ち込まれる見合い話に戦々恐々とする日々。バブル崩壊後、耳
に入ってくる話は景気の悪いものばかりだし、正直、「私、どうなっちゃ
うんだろう?」と不安に目をきょときょとさせていました。

そんな私の心を支えてくれたのは、取材で話を伺った、ある女性建築家の
言葉です。
「私は営業はしません。営業は、私の作った家がしてくれます」。
目の前の仕事をきちんとしていさえすれば、必ず見ていてくれる人はいる、
評価は後からついてくる――。仕事のスケールこそ違え、その言葉はきっ
と自分にも当てはまるはず。そして、それを守っていさえすれば、この道
で食いっぱぐれても、きっと何とかして生きていける!

そう思いながら細々と仕事を続けるうちに、将来への漠然とした不安はな
くなっていきました。「何で私、細々とでも仕事をもらえるのかな?」な
んて不思議に思っているうちに、気がつけば14年が経ちました。途中、結
婚や二度の出産も経験しましたが、どうにかこうにか仕事を続けることが
できました。

「人生設計」も大切ですが、未来は設計図どおりに行くとは限りません。
それよりも、今日やるべき仕事をきちんとやる。その中から見えてくる
未来もあるんです。

なんとなく将来に不安を感じたら、時計も見ないで仕事に没頭する。ある
いは、自分に課したノルマ(資格取得の勉強とか、ジム通いとか、自炊と
か…)をきっちりこなす。そしてそれを継続させる、それがイチバンなの
かもしれません。
*… vol.3 『結婚、出産』 …*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
若い頃、自分が結婚するとは思っていませんでした。結婚している人たちで、
幸せそうな人たちってあんまりいないように見えたし、友達がいれば全然さ
びしくないし、またそういう同様の友達がいっぱいいたし。
それでも私は結婚しました。決して理想の人ってわけじゃありませんでした
けどね(夫にはナイショ! でも向こうもそう思ってると思う)。

結婚した理由はいろいろです。「親を安心させたい」「法的・経済的に安定
したい」「子供がほしい」「一人暮らしより安全だ」など。でも、最大の理
由は、コレですね。「経験したことのないことを一つ減らしたい」。
イヤになったらさっさと別れればいいことなので、気負いはあまりありませ
んでした。相手に対する期待も、そんなになかった。だからうまくいったの
かもしれません。

しかし、出産となると、そうも言っていられません、イヤならさっさと、は
ムリ! たとえ夫と別れても、一生責任を負わなければならないんです。さ
すがに妊娠したときはいろいろ考えましたし、覚悟を決めました。こればか
りはマジメにならざるを得ません。
 
結論として現在、結婚も出産も、してよかったな〜としみじみ思っています。
一人暮らしの自由さを懐かしまないではないのですが、若い頃やることはや
っておいたので(笑)、未練はないです。それよりも、自分以外の人間と一
緒に生きることの楽しさ、難しさを味わうことができて、よかったなあと思
います。
*… vol.4 『仕事の遺伝子』 …*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
OL時代は、会社のある神楽坂に住んでいました。出版社が林立し、料亭街
でもある神楽坂。商店街は充実していて、どの店も遅くまでにぎわってい
ました。書店も酒屋も、品揃えはちょっとしたもので、商売へのプライド
を感じさせます。そして、そういった店に共通するのは、「その店の挨拶」
があったことでした。
A書店では、店長以下全員が皆同じ目線、同じイントネーションで「…い
らっしゃいませ」と挨拶します。ちょっと低い、くぐもった声、微妙な“
タメ”が特徴です。B酒店では、店員全員が、社長夫人と同じ笑顔、同じ
トーンで挨拶します。「いらっしゃいませ〜ぇ!」。景気のよい、華やか
な感じ。ついつい、たくさん買ってしまいそうです。
“その店の挨拶”があったように、“その店の仕事のやり方”もあるので
しょう。伝票の重ね方、印鑑の置き場所、お客様に出すお茶の温度。仕事
って、ちっぽけなディテールの集大成ですから。店長はその前の代の店長
に、社長夫人は大奥さんに、そのやり方を学んだのかもしれません。それ
はきっと、代々受け継がれてきた「仕事の遺伝子」みたいなものなのかも
しれません。
最初の上司の影響って、大きいものだと思いませんか? その上司が、場
当たり的な仕事をしていれば、部下も「それが仕事というものだ」と思い
込む。きっちりした仕事をする上司についた部下は幸運です。意欲さえあ
れば、それは一生の財産になります。
直接の上司でなくてもいいんです。同僚、出入りの業者、講習会の講師。
「いい仕事」をしている人に注目しましょう。そして、その人が持つ「仕
事の遺伝子」を分けてもらいましょう。もしかしたらそれは、その人がそ
の人の上司や職場から受け継いだ、何十年もの蓄積から成る貴重な「遺伝
子」かもしれませんよ。そう、美酒を醸す蔵に住む酵母のような…。
*… vol.5 『楽天的?』 …*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
私は、あまり楽天的な性格ではありません。ちょっと仕事が途切れると、
「もう仕事なんか来ないかも…」なんて落ち込むし、書いている原稿に
煮詰まっては、「こんなつまんない文章、誰も読まないよ…」と髪の毛
をかきむしる。ああ、陰気な性格。
でも、この楽天的ではない、小心な性格のお陰でしょうか。今まで「締
切り」を破ったことはほとんどありません。自分ひとりが看板のフリー
ランスにとって、それは最低限のクオリティでもありました。
「もっと楽天的に考えなさいよ」と言ってくれる人がいます。自分でも
そうなりたいと思います。でもなれない。性格って、なかなか直るもの
ではないですね。
ただ、年を経てだんだんわかってきました。楽天的になっていい時期と、
ならない方がいい時期があるってことが。
自分でやらなきゃならないことがハッキリしている時。工夫や努力で少
しでもよくなることがわかっている時。そんな時はむしろ、自分を問い
詰めて、追い込んで、落ち込むくらいでちょうどいいみたい。
でも、頑張ってやり抜いてやり遂げて、仕事が自分の手から離れたら、
その時こそとことん楽天主義に徹しましょう。だって、もう自分じゃど
うにもならないんだもの。他からの評価や、変えようのない結果を、今
さらどうすることもできませんものね。
要は、自分の力で変えられることと変えられないことを、しっかり見極
めることです。悲観的な私ですが、自分の力ではどうしようもないこと
に関しては、きっぱり開き直ることにしています。だってムダだし、パ
ワーを消耗しちゃいますから。
楽天主義は、人事を為した後にこそ必要なもので、何もしないうちから
根拠もなく楽天的では、困ってしまいますよ、きっと。
*… vol.6 『働くということ』 …*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
私が最初に出産したのは、9年前でした。経験のある方にはおわかりでしょう
が、産婦の精神状態は、怒涛のようなホルモンの分泌のお陰で、自分では抑
制できないくらい不安定になります。私の場合は、何を見ても涙が出て出て、
止まらなくなってしまいました。
三晩も続いた微弱陣痛に付き合ってくれた夫は会社。産院からは、私一人で
タクシーを呼んで帰ることになりました。腕には、生まれたばかりのちっぽ
けな赤ん坊! こんなもの、これからどうやって育てればいいの!? 鼻水
をすする音が車内に響きます。バックミラーに映る自分の泣きはらした顔を
見ながら、いつしか私は嗚咽していました。
ところが、途中でふと気がついたのです。そのタクシーが、今まで経験した
ことのないほど、すばらしい運転をしていることに。停止したことを感じさ
せないほど、なめらかなブレーキング。スタートもまるで、鏡の上を滑り出
すよう。震動もなく、まったく体に負担を感じません。セレブが乗るリムジ
ンの運転って、こんなかも…。この人、すごいドライビングテクニックだ!
その運転手さんは、終始一言も口をききませんでした。家に着くと、無言で
トランクから荷物を降ろしてくれ、規定の料金を受け取って走り去りました。
一人ぼっちで、泣きながら赤ん坊を抱く女を見て、運転手さんが何を想像し
たかはわかりません。しかし、彼は明らかに、「運転」という彼の仕事を通
して、最大限の思いやりを表現してくれました。その鮮やかな仕事ぶりは、
9年経つ今も、忘れることができません。
仕事って、そういうものでありたいなあと思います。自分が毎日している仕
事を通じて、自分という人間を表現する。それが誰かに伝わる。誰かにとっ
て、忘れられない仕事ができたら、素敵だなあと思いませんか?
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